肉食系男子推奨を貫いた作詞家・つんく♂

 これまで膨大な数の歌詞を世の中に出し続けてきたつんく♂さんだけど、僕がハロプロファンとしてつんく♂さんの歌詞に接してきた中で、”作詞家・つんく♂”の「これは稀有だし、すごいな」って感じてるところのひとつに、「『男は肉食系なところがなければダメだ』という信条をブレさせなかった」というのがあります。

 僕は流行りの音楽を聴くことがほとんどないので詳しくは語れないけど、近年の日本のポップスシーンをぼんやり眺めてた感じで言うと、多くの歌詞に出てくる理想の男性像は「ひたすら優しくて、繊細な心遣いがあって、一途で、彼女の全てを肯定する(受け入れる)彼氏」みたいなイメージだったと思います。この傾向は2000年代に入って顕著になり始め、00年代後半にかけてどんどん強まっていったように感じてます。こういうメッセージを浴びせ続けられたら、そりゃ男性が草食系になるのも無理もないですよ(笑)。

 この傾向は女性アーティスト側の視点もそうだけど、それだけでなく男性アーティストもそうだし、むしろ男性アーティストのほうに顕著かもしれないですね。EXILEさんとか、そこらへんのR&Bポップ系のを甘い声で歌ってるような人は特にかなぁ。いや、男性アーティスト全般が今やそうかもしれないですね(ハードロック系とかの特にとんがったジャンルは除いて)。たぶんそういう歌詞を求める女性ファンのニーズが強いんでしょう。

 一方、つんく♂さんの歌詞の「肉食系(ヤンチャ)な彼氏に恋する女の子」みたいな世界観は、00年代には「時代錯誤」「古臭い」「リアリティがない」とか言われて、ハロプロファンの間でさえも不当に低く評価されてたような気がします。
 でも落ち着いて考えてみると、1990年代だろうが2000年代だろうが2010年代だろうが、肉食系(ヤンチャ)な男の子は女の子にモテてるわけで、なんら「時代錯誤」でもないしリアリティもありまくりなわけですよね(笑)。むしろ「それが生き物として当たり前」っていうか。つんく♂さんの歌詞の男性像・女性像はある部分でリアルなんだと思います。リアルだからこそJ-POP世界の男性像・女性像とは乖離してしまう。
 裏返して言うと、J-POPが女性リスナーのニーズを突き詰めていくうちに、理想の「優しい彼氏像」を加速させすぎちゃった感も僕は感じてます。
 恋愛に消極的と言われる今の時代、J-POPの「ひたすら優しくて繊細な心遣いが出来る彼氏」っていうイメージの影響も多少はあるんじゃないかなって思います…。そんな優しくて繊細な人にとって、リスクを負って女の子にアタックするのはなかなかハードル高いですからね。優しくて繊細なんだけど女性へのアプローチだけはアグレッシブ、とかそんな都合よくはいかないです(笑)。男性側が望みどおりに優しくなってくれたんだから、女性の側からガンガンアプローチするようになってくれれば、一応釣り合いはとれるんですけどねぇ。。

 他のJ-POPの歌詞がほとんど「優しくて一途な男の子が最高!」っていう状況の中で、「時代錯誤」「リアリティがない」とか言われながらも肉食系推奨の信条を崩さなかったつんく♂さんは一本芯の通ったアーティストだなって思います。「流行歌なんだからトレンドに乗っかっとくべき」っていうのも戦略としては正しいんだろうけど、つんく♂さんは信条をブレさせることなく、それでも今またハロプロが上昇気流になりつつあるっていうこの現状のほうが、僕は結構痛快で面白いです(笑)。しかも、近頃は「やっぱ男は肉食系じゃないとね」みたいな世論が起こってきてるようにも感じるし。