つんく♂さんの大人な歌詞を年若いメンバーが歌うということ

 つんく♂さん(40代・3児の父)が書くメッセージ性の高い歌詞を、メンバー(10代〜20代のアイドル)が歌ってるということで起こるズレのようなものが、僕はわりと嫌いじゃないんですよね(笑)。

 つんく♂さんのメッセージ性の高い歌詞は、つんく♂さんの人間観・人生観を語ってたり、つんく♂さんがメンバーに送りたいアドバイスであったりすることが多いように感じてます。普通はそれを歌い手であるメンバー(10〜20代の女の子)が主人公になるように視点を変換したりするのが通常だと思うんだけど、つんく♂さんの歌詞はそういう変換があまりなくて、「40代の大人・3児の父」視点の色合いが結構濃く残ってるんですよね。10〜20代前半ではそんなに辿りつけないような大人な(ときには父親の一面も感じさせるような)価値観がかなり入ってて、歌詞の成熟度とメンバーの成熟度の間のミスマッチがわりと大きいと思うんです。
 モーニング娘。'14『笑顔の君は太陽さ』の「大人はズルいとか そう感じてるだろう 大人は君に戻りたいと思ってるよ」なんかはそのわかりやすい典型例の一つだと思うんですけど。

 でも、そんなミスマッチにもかかわらず、つんく♂さんの大人な価値観を含んだ歌詞がメンバーを媒介して表現されることによって、他にあまりない”良い味”が出てるとも思うんですよね。無粋な言い方になっちゃうけど「つんくさんのある種の達観すら含んでるような大人な価値観が、絶対的にピュアな存在である”少女”によって歌われることによって、より心を打つものとして伝わってくる」みたいな感じかと。

 岡田斗司夫さんが以前、ニコ生の『魔法少女まどか☆マギカ』の感想トークで語ってたんですけど、「どうして日本のアニメ界ではシリアスな葛藤ドラマの主人公が美少女でなければいけないのか? アニメファンのウケを意識しているからという理由以外に、その心の葛藤とかを絶対的にピュアな存在である”少女”に一旦仮託させることによって、逆に我々はそのキャラの心理により素直にリアリティを感じられるのではないか」ということをおっしゃっていて、なるほどなぁって思ったんですよね。

 あと、そういう「少女(=ピュアな存在)の媒介」っていう効果とは別に、ハロプロによくあるのが「つんく♂さんがメンバーに宛てたメッセージやアドバイスを、メンバーが歌う」ってやつですよね(笑)。また『笑顔の君は太陽さ』の中から挙げれば、まーちゃんが歌ってる「人を羨むんじゃない」とか。これは何か深い考えがあるんでしょうかねぇ? このパターンは単に「強くダイレクトに伝えたい」っていうだけのことなのかもしれないけど、まぁつんく♂さんの歌詞の中の楽しいスパイスの一つではありますね(笑)。