北村薫「秋の花」

 「円紫さんと私」シリーズ、三作目。前作「夜の蝉」で、姉とのやり取りや江美ちゃんの結婚があって、《私》の女性性の部分で微妙な変化の兆しがあったように思えた。なので、三作目では《私》も恋愛なんてしちゃったりするのかなあと危惧していたが、そんなことはなくて一安心(笑)。《私》のキャラが好きな者としては、恋愛はちょっと…っていう気持ちがあるんだよねえ。《私》の見る日常をもっと見ていたいから。
 読んでる途中まで気づかなかったが、一作目二作目とは違って長編モノ。しかも人の死が絡んでいる。
 秋晴れの中、正ちゃんや江美ちゃんとハイキングをする明るいはずのシーンでも、常に事件が影を落としていて、全編通して重かった。このシリーズにはもっと軽やかなものを期待してるだけに余計に。
 解き明かされた真実は、それまでの細やかな描写の積み重ねによって、一層残酷に感じられた。
 文章が素晴らしいのはもちろん、謎解きも鮮やかで良い作品でした。ただ、次はもっと軽やかな味わいの「円紫さんと私」シリーズが読みたいな。